材質の異なる薄板を張り合わせると,例えば常温ではまっすぐ平らだったものが,高温・低温の状態にすると”そり”が生じてしまうことがある.これは,それぞれの材質が異なる熱膨張率を持っていることに起因する変形で,バイメタル効果と呼ばれる.
このような特性を積極的に利用した製品として,バイメタル温度計,サーモスタットのスイッチなどが挙げられる.宇宙での使用例としては,宇宙機の熱制御に用いられるサーマルルーバがある.これは,ブラインドの開閉によって宇宙機からの放熱を調節する機器で,ブラインドを回転させるアクチュエータにバイメタルが用いられる.アクチュエータそのものの温度によって自動的に開閉され,かつモーターやベアリングといった摺動部を持った部品を使わずに駆動できるのが利点である.一方で,ブラインドのブレード,アクチュエータ,それらを保持するフレームなどが必要になるので,ある程度の重量となることは避けられない.近年,使用例はそれほど多くない印象だが,彗星探査機のRosettaや,月周回衛星「かぐや」などに用いられているのは記憶に新しい.
曲率半径の解析解
外力・モーメントがなく均一な温度変化の下で,バイメタルの変形(曲率半径ρ)は解析的に表すことができるので,これを導出してみよう.図に示すように,ひずみの生じていない中立軸の位置をZ方向原点,物体底面の位置をRとする.
このとき,軸力およびモーメントは次のように表される.
Nx=∫RR+h1σ1b dz+∫R+h1R+h1+h2σ2b dz=∫RR+h1E1(ρz−α1ΔT)b dz+∫R+h1R+h1+h2E2(ρz−α2ΔT)b dz=E1b[2ρz2−α1ΔTz]RR+h1+E2b[2ρz2−α2ΔTz]R+h1R+h1+h2=E1b(2ρ2Rh1+h12−α1ΔTh1)+E2b(2ρ2(R+h1)h2+h22−α2ΔTh2)
My=∫RR+h1σ1zb dz+∫R+h1R+h1+h2σ2zb dz=∫RR+h1E1(ρz−α1ΔT)zb dz+∫R+h1R+h1+h2E2(ρz−α2ΔT)zb dz=E1b[3ρz3−2α1ΔTz2]RR+h1+E2b[3ρz3−2α2ΔTz2]R+h1R+h1+h2=E1b(3ρ3R2h1+3Rh12+h13−2α1ΔT(2Rh1+h12))+E2b(3ρ3(R+h1)2h2+3(R+h1)h22+h23−2α2ΔT(2(R+h1)h2+h22))
ただし式変形には,ひずみと曲率半径の関係(1)を用いた.
ϵ(z)=ρdθ(ρ−z)dθ−ρdθ=ρ−z
いま外力なしの状態を考えているので,断面に生じる応力の合計(軸力)はゼロである.このことから(2)の関係が得られる.
R(E1h1+E2h2)+E2h1h2+21(E1h12+E2h22)=ρΔT(E1α1h1+E2α2h2)
同様に,モーメントも断面全体でゼロとなるので以下の関係が得られる.
R2(E1h1+E2h2)+R(E1h12+2E2h1h2+E2h22)+31E1h13+E2h12h2+E2h1h22+31E2h23=E1α1ΔTρRh1+E2α2ΔTρ(R+h1)h2+21E1α1ΔTρh12+21E2α2ΔTρh22
軸力の式(2)を用いて,モーメントの式からRの次数を下げる.
21R(E1h12+2E2h1h2+E2h22)+31E1h13+E2h12h2+E2h1h22+31E2h23=ρE2α2ΔTh1h2+21ρE1α1ΔTh12+21ρE2α2ΔTh22
以下の2式からRを消去すれば,曲率半径ρが求められる.
R(E1h1+E2h2)(E1h12+2E2h1h2+E2h22)+32(E1h1+E2h2)(E1h13+3E2h12h2+3E2h1h22+E2h23) =ρΔT(E1h1+E2h2)(2E2α2h1h2+E1α1h12+E2α2h22)R(E1h1+E2h2)(E1h12+2E2h1h2+E2h22)+21(E1h12+2E2h1h2+E2h22)2 =ρΔT(E1α1h1+E2α2h2)(E1h12+2E2h1h2+E22)
ごちゃごちゃしていますが,がんばって整理しましょう.
ρΔT(E1h1+E2h2)(2E2α2h1h2+E1α1h12+E2α2h22)−32(E1h1+E2h2)(E1h13+3E2h12h2+3E2h1h22+E2h23)=ρΔT(E1α1h1+E2α2h2)(E1h12+2E2h1h2+E22)−21(E1h12+2E2h1h2+E2h22)2ρΔTE1E2(α2h12h2−α1h12h2+α2h1h22−α1h1h22)=61(E12h14+4E1E2h13h2+6E1E2h12h22+4E1E2h1h23+E22h24)
最終的に曲率半径ρは以下のように表される.
ρ1=E12h24+2E1E2h1h2(2h12+3h1h2+2h22)+E22h246(α2−α1)ΔTE1E2h1h2(h1+h2)
まとめと参考文献
熱構造について書かれた教科書は少ないが,は構造に関わる幅広いトピックを扱っており,例題・コード例も豊富なので非常に参考になる.はバイメタルの変形について解析的に扱っている(おそらく)最初の論文だ.