今回は,ある大きな孤立系の一部分に注目して,その部分系の分布関数がどうあらわされるかについて考えよう.
まず,出発点となるミクロカノニカル分布の式(1)について確認しておこう.dwはある系がある量子状態dΓの範囲で見つかる確率を表す.const×δ(E−E0)の部分は,系がE−E0を満たすあるひとつの状態が見つかる確率を表しており,それに後ろから状態数がかけあわされている.状態数は∏adΓaという形で表されているが,これは系がたくさんの部分系からなり,それぞれの相互作用は無視するという仮定が置かれているからである.
dw=const×δ(E−E0)a∏dΓa
ここで,2つの部分bodyとmedium(body以外の全て)からなる閉じた系について考えよう.このとき(1)は(2)のように書き換えることが出来る.ただしE, dΓはbody,E′, dΓ′はmediumのエネルギーと量子状態を表し,あるべきE0は系のエネルギーを表す.
つまり,このデルタ関数はbodyとmediumのエネルギーの合計がE0のときにピークを持つ.
dw=const×δ(E+E′−E0) dΓdΓ′
いまbodyがある量子状態nであるような確率wnを知りたいので,bodyの量子状態をn (dΓ=1)で固定して,medium dΓ′について積分する.
wn=const×∫δ(En+E′−E0) dΓ′=const×∫ΔE′ekBS′δ(E′+En−E0) dE′=const×⎝⎛ΔE′ekBS′⎠⎞E′=E0−En
mediumのエントロピーは,エネルギーの一次近似として以下のように表す.
熱力学を思い出せば,エントロピーのエネルギーによる微分は逆温度であった.
S′(E0−En)=S′(E0)−dE0dS′(E0)En=S′(E0)−TEn
いま系は平衡状態にあって,bodyとmediumは同じ温度なので,カノニカル分布は以下のように表される.
wn=const×ΔE′1ekBS′(E0)−kBTEn=Ae−kBTEn
ここで,Aは規格化のための係数で,∑nwn=1となるように決めてやる必要がある.
なので,最終的に次のような形で表される.
wn=∑me−kBTEme−kBTEn
出現頻度を決めるe−kBTEnはボルツマン因子(Boltzmann factor)と呼ばれており,分母の規格化係数は分配関数(partition factor)と呼ばれる.