引き続き蒸発・凝縮が起こっているようなliquid-vapor interfaceについて考えよう.これまで分子の速度分布としてマクスウェル・ボルツマン分布をもとに議論してきたが,これは平衡状態にある系において成り立つものである.実際の蒸発・凝縮が起こっている領域では,局所平衡状態にある液相と局所平衡状態にある気相の間に,(非常に薄い)遷移層とKnudsen Layerと呼ばれる非平衡な領域があり,とくにKnudsen Layerでの物理は全体としての蒸発・凝縮現象を理解する上で無視できない.非平衡な領域における速度分布を知るためには,速度分布関数が満たすべき偏微分方程式を物理的な考察をもとに立てて,解いてやらなければならない.そこで最初の目標は,そのような偏微分方程式を導出することである.
今回は,先にゴールとなる式の形を示しておく.ボルツマン方程式(1)は流体を構成する分子の速度分布関数が満たすべき方程式で,粒子同士の衝突の影響を表す衝突項C(f)を含んでいる.
∂t∂f+v⋅∇f+F⋅∂p∂f =C(f)C(f)=∫w′(f′f1′−ff1) dΓ1dΓ′dΓ1′
ボルツマン方程式の導出
分子の確率分布関数f(t,q,p)を時間,位置,運動量の関数として全微分を取ると,(3)式が得られる.
dtdf=∂t∂f+v⋅∇f+F⋅∂p∂f
確率分布関数f(t,q,p)の全微分について式変形を確認しておこう.
df=∂t∂fdt+∂qi∂fdqi+∂p∂fdpdtdf=∂t∂f+∂qi∂fdtdqi+∂p∂fdtdp=∂t∂f+v⋅∇f−∇U⋅∂p∂f
ただし,運動量の微分とポテンシャルのgradientの関係は以下の通りである.
E=K+U=2mpi2+U(qi)mpidpi+∂qi∂Udqi=0pidtdpi+∂qi∂U(mdtdqi)=0dtdpi+∂qi∂U=0
もし平衡状態であれば,確率分布関数は一定でdf/dt=0となるべきだが,今回は確率分布関数が一定とはならず,分子の衝突の影響分df/dt=C(f)だけ変化する,と考えよう.これを表しているのが(1)の1式目である.次に2式目の衝突項C(f)について考えよう.
2つの分子が衝突する状況を考える.一方が状態Γもう一方が状態Γ1で,それぞれdΓ,dΓ1の幅を持つとする.f(t,r,Γ)dΓはある時間,ある位置,状態Γ幅dΓ内の,単位体積内の分子数を表す.これより,単位時間,単位体積あたり,Γ,Γ1→Γ′,Γ1′という状態変化を伴う衝突が起こる回数は次のように表される.
w(Γ,Γ1→Γ′,Γ1′) ff1 dΓdΓ1dΓ′dΓ1′
衝突により値Γ幅dΓからいなくなる分子の個数を”losses”と呼ぶことにすると
losses=dVdΓ∫w(Γ,Γ1→Γ′,Γ1′) ff1 dΓ1dΓ′dΓ1′
逆に,衝突により値Γ幅dΓに入ってくる分子の個数を”gains”と呼ぶことにする.
gains=dVdΓ∫w(Γ′,Γ1′→Γ,Γ1) f′f1′dΓ1dΓ′dΓ1′
これらの差をとると,衝突による個数分布の変化がわかる.
dVdΓ∫(w′f′f1′−wff1) dΓ1dΓ′dΓ1′wherew=w(Γ,Γ1→Γ′,Γ1′), w′=w(Γ′,Γ1′→Γ,Γ1)
w(Γ1,Γ2→Γ1′,Γ2′)は衝突に伴って状態(Γ1,Γ2)から(Γ1′,Γ2′)に移行する条件付確率を表すが,古典的な衝突に限って議論すると衝突に伴う状態変化は一意に定まる.つまり,衝突前状態をある値(Γ1a,Γ2a)と固定すると,w(Γ1a,Γ2a→Γ1′,Γ2′)は古典力学によって定まる衝突後状態(Γ1a′,Γ2a′)にピークを持つδ関数となる.また,衝突後状態を(Γ1a′,Γ2a′)に固定すると,w(Γ1,Γ2→Γ1a′,Γ2a′)は衝突前状態(Γ1a,Γ2a)にピークを持つδ関数となる.
まとめと参考文献
導入部分の議論は を参考に,ボルツマン方程式の導出はを参考にした.