準古典的な系の波動関数
多数の粒子からなる準古典的な系について議論しよう.シュレーディンガー方程式を以下のように表す.
a∑maℏ2Δaψ+(E−U)ψ=0
これに波動関数ψ=eiS/ℏを代入する.
a∑ma1(∇aS)2−a∑2maiℏΔaS=E−U
ただし波動関数のラプラシアンは以下のように整理した.以前の議論で「Sは作用(action)でラグランジアンの汎関数である」ということを仮定したが,今の時点ではそのことを前提としていないことに注意しよう.
Δψ=ΔeℏiS=∇⋅∇eℏiS=∇⋅⎣⎡∂x∂eℏiS∂y∂eℏiS∂z∂eℏiS⎦⎤=∇⋅⎣⎡ℏi∂x∂SeℏiSℏi∂y∂SeℏiSℏi∂z∂SeℏiS⎦⎤=ℏi[∂x2∂2SeℏiS+ ℏi(∂x∂S)2eℏiS]+ℏi[∂y2∂2SeℏiS+ ℏi(∂y∂S)2eℏiS]+ℏi[∂z2∂2SeℏiS+ ℏi(∂z∂S)2eℏiS]=[ℏiΔS−ℏ21(∇S⋅∇S)]eℏiS
ここでSとして,ℏより十分大きい項,ℏ程度の項,ℏ2程度の項,…の和という形を仮定する.
S=S0+iℏS1+(iℏ)2S2+⋯
1次元の場合に限れば以下のように書き直せる.
2mS′2−iℏ2mS′′=E−U(x)
最初の近似としてℏについて1次以上の項を無視すると,次の関係が得られる.
2mS0′2=E−U(x)S0′=±2m[E−U(x)]
積分の中身は運動量p(x)になっている(2mK=mv).古典的な系であればE≤U(x)の範囲での運動しか実現しないので,ルートの中は正である.
S0=±∫2m[E−U(x)]dx=±∫pdx, p=2m[E−U(x)]
この関係が成り立つためには,(4)の2項目が1項目に比べて十分小さくなければならない.
∣∣dxd(S′ℏ)∣∣ ≪1, where dxd(S′ℏ)=−S′2ℏS′′
S′=pと代入してやれば(9)は次のように書き換えられる.
p3mℏ∣F∣≪1
ただし変形には以下の関係を用いた.
dxdp=dxd2m[E−U(x)]=22m[E−U(x)]1dxd(2m[E−U(x)])=−pmdxdU(x)=pmF
(10)から,運動量が非常に小さい時は近似が成り立たないことがわかる.特にp(x)=0あるいは,E=U(x)となる点においては明らかに不成立である.そこで次に,ℏの1次の項まで含めた場合について考える.S=S0+iℏS1を(4)に代入し,2次以上の項は無視して整理すると以下の通り.
(S0′+iℏS1′)2−iℏ(S0′′+iℏS1′′)=2m[E−U(x)]S0′2+i2ℏS0′S1′−iℏS0′′=2m[E−U(x)]2S0′S1′+S0′′=0
S1′=−2S0′S0′′S1=−21log(S0′)=−21logp
よってℏの1次の項まで考慮したSは以下の通り.
S=±∫pdx−21logp
これをもともと仮定した波動関数ψ=eiS/ℏに代入すると,以下の形で一般解を表すことができる.
ψ=pc1eℏi∫pdx+pc2e−ℏi∫pdx
eℏiS=exp[ℏi(±∫pdx−21logp ×iℏ)]=exp[±ℏi∫pdx]×exp[−21logp]
一方で古典的には生じないE<U(x)の範囲については,以下のように表すことができる.
ψ=∣p∣c1eℏ1∫∣p∣dx+∣p∣c2e−ℏ1∫∣p∣dx
準古典的な系の境界条件
x=aをU(a)=Eとなるポテンシャルの境界とする.このとき境界の右側と左側での解は次のように表される.
ψ=∣p∣cexp[−ℏ1∫xa∣p∣dx], for x>a
ψ=pc1exp[ℏi∫axpdx]+pc2exp[−ℏi∫axpdx], for x<a
これらの係数を決定するために,境界x=aで接続するための条件を考えよう.まず,x=a付近でのポテンシャルを次のように近似する.
E−U(x)=F0(x−a), where F0=−dxdU∣∣x=a<0
これをp=2m[E−U(x)]に代入すると,運動量の積分は次のように計算できる.
ℏ1∫axp dx=ℏ1∫ax2m[E−U(x)]dx=ℏ1∫ax2mF0(x−a)21dx=ℏ2mF032[(x−a)23]ax=3ℏ22mF0(x−a)23
ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件
ψ=pccos[ℏ1∫bxpdx−4π]ψ=pc′cos[ℏ1∫xapdx−4π]right side of x=b left side of x=a
左側を基準に考えれば,x=bで位相が−4πで,そこからℏ1∫bxpdxに従って位相が増えていく.c=c′の場合,x=aでの位相が±4π+2nπになっていればx=aでのcosの値は一致するが,その他の点でも一致するためには4π+2nπでなければならない.結局(25, 26)の2式が一致するためには,位相について次の関係が成り立つ必要がある.
if c=c′:if c=−c′:ℏ1∫bapdx−4π=4π+2nπℏ1∫bapdx−4π=4π+π+2nπ
まとめて書けば次のように表される.
ℏ1∫bapdx−2π=nπ, with c=(−1)nc′
周期的な運動の1周分の積分を∮pdx=2∫bapdxとして書き直すと,(30)の関係が得られる.これはBohr-Sommerfeldの量子化条件に対応する.
2πℏ1∮pdx=n+21
さて∮pdxという積分は,xp平面上の面積と考えることもできる.この領域をn分割すると,分割された領域ひとつひとつの面積は(およそ)2πℏとなる.一方でnという数は系のエネルギー状態に番号を付けたもの(量子数)に対応する.つまりひとつのエネルギー状態はxp平面上の2πℏの面積に対応している.さらに言い換えれば,xp平面上のΔpΔxの面積には(31)だけのエネルギー状態が対応している,と考えられる.
2πℏΔpΔx