形態係数(View Factor)とは

January 29, 2022      

View Factorの具体的な値が知りたい方はこちらへ: View Factor Calculation: Analytical and Monte Carlo Method

熱輻射と形態係数(View Factor)の関係

どんな物体も,表面から常に電磁波としてエネルギーを放射している. ある物体Aからエネルギーが放射され別の物体Bに当たって吸収されれば,輻射によって熱が伝えられた,ということになる. このときどれだけのエネルギーが伝わったのかを推定するためには,ざっくり以下の3点を知りたい.

  • 物体Aからどれだけエネルギーが放射されているのか?
  • 物体Aから放射されたエネルギーのうちどれだけの量が,物体Bに当たったのか?
  • 物体Bに当たったエネルギーのうちどれだけが(反射したり透過したりせずに)吸収されたのか?

このうち2点目の「物体Aから放射されたエネルギーのうちどれだけの量が,物体Bに当たったのか?」に関しては, 物体ABの物質の特性やその時の温度に依らず,純粋に形と位置関係によってのみ決まる. これを事前に計算しておいて,何度も使えるパラメタとして準備しておこうというのがView Factorのアイデアだ (一方で,それぞれの物体が変形したり,位置関係が変わってしまった場合は,計算しなおさないといけない). 注意点として,ここでは理想的な粗面(diffusive surface)についてのみ考えるものとする.

立体角

View Factorの議論をする前に立体角の定義について確認しておこう. 立体角とは感覚的には「ある点から物体を見たときに,その物体が視野のうちどれだけの割合を占めるか」を表す.もう少し具体的には次のような量である.

ある微小表面dAidA_iとそれを取り囲むような,半径1の半球を考える. ある物体を微小表面dAidA_iから見たときに,半径1の半球上に投影して面積Aだけの領域を占めるのであれば,立体角をAAとする. もし,微小表面dAidA_iの視野全体を占めるような物体があれば,微小表面からその物体への立体角は半径1の半球の表面積2π2\piとなる.

では,微小表面dAidA_iから微小表面dAjdA_jへの立体角をきちんと数式で定義しよう. 2つの微小表面間の距離をSS,微小表面の法線ベクトルを視線方向とのなす角をそれぞれθi\theta_i, θj\theta_jとする. このとき,微小表面dAidA_iから微小表面dAjdA_jを見たとき,半径1の半球上への投影面積は次のように表すことが出来る.

dΩ=dAjcosθjS2\begin{equation} d\Omega = \frac{dA_j \cos \theta_j}{S^2} \end{equation}

微小表面dAidA_iから,何かしらの広さを持った領域への立体角は(1)を積分すればよい.

Ω=AdAjcosθjS2\begin{equation} \Omega = \int_A \frac{dA_j \cos \theta_j}{S^2} \end{equation}

ある微小表面dAidA_iとそれを取り囲むような,半径1の半球を考える. ある物体を微小表面dAidA_iから見たときに,半径1の半球上に投影して面積Aだけの領域を占めるのであれば,立体角をAAとする. もし,微小表面dAidA_iの視野全体を占めるような物体があれば,微小表面からその物体への立体角は半径1の半球の表面積2π2\piとなる.

形態係数(View Factor)の定義

最も基本的な場合として,微小表面dAidA_iからdAjdA_jへのView Factorを(3)のように定義する. これは微小表面dAidA_iから放射された熱と,そのうち微小表面dAjdA_jへ当たった熱の比を表している.

dFdAidAjdiffuse energy directly hitting dAjtotal diffuse energy from dAi\begin{equation} dF_{dA_i-dA_j} \equiv \frac{\mathrm{diffuse~energy~directly~hitting~} dA_j}{\mathrm{total~diffuse~energy~from~} dA_i} \end{equation}

粗面から放射される熱は,放射方向に依存して単位立体角当たりIcosθI \cos \thetaという形に表される(ランベルトの余弦則). これを用いると,dAidA_iから放射される熱の合計は次のようになる.ただし,φ\varphiはazimuth方向(周方向)の角度を表す.

dAi02π0π2IcosθdΩ=dAi02π0π2Icosθsinθdθdϕ=πIdAi\begin{equation} dA_i \int_0^{2\pi} \int_0^\frac{\pi}{2} I \cos \theta d\Omega = dA_i \int_0^{2\pi} \int_0^\frac{\pi}{2} I \cos \theta \sin \theta d\theta d\phi = \pi I dA_i \end{equation}

次にdAidA_iから放射されて,dAjdA_jに当たる熱は次のように表される.ただしSSは微小表面dAidA_iから微小表面dAjdA_jへの距離を表している.

IcosθidAidΩ=IcosθidAidAjcosθjS2\begin{equation} I \cos \theta_i dA_i d\Omega = I \cos \theta_i dA_i \frac{dA_j \cos \theta_j}{S^2} \tag{4} \end{equation}

よって定義から,微小表面dAidA_iからdAjdA_jへのView Factorは次のように表される.

dFdAidAj=cosθicosθjπS2dAj\begin{equation} dF_{dA_i-dA_j} = \frac{\cos \theta_i \cos \theta_j}{\pi S^2} dA_j \end{equation}

ランベルトの余弦則 / Lambert’s Law

ここまでの議論で分かるように,View Factorは粗面(ランベルトの余弦則)の仮定の下でのみ有用なパラメタである. ランベルトの余弦則の主張は「粗面から放射される熱は,放射方向に依存して単位立体角当たりIcosθI \cos \thetaという形に表される」だが, この法則をより直感的に理解するために,次のように言い換えてみよう.

大きさAAの面があったときに,その面をいろいろな方向からのぞいてみる. 正面から見ればその面の大きさは確かにAAだが何らかの角度をつけて見れば,見かけの面積はAcosθA \cos \thetaとなる. つまりランベルトの余弦則は「ある面から放射される熱は見かけの面積に比例する」と言い換えることも出来る. 逆にもし,放射熱量が方向に依存せず一定だとすると,ある面を斜めから見た方が,正面から見た場合よりもエネルギー密度(輝度)が高い. 平たく言えばより明るく見えるということになってしまう.このように考えると,ランベルトの余弦則は感覚的にも自然な主張と言えそうだ.

さらに理解を進めるため,理想的に次のような状況を考えよう. ある微小表面dAdAとそれを取り囲むような内部が真空で半径RRの球があるとする. 球の内側表面にはある一部分dAsdA_sだけ黒体部分があり,残りは理想的な鏡面反射面とする. dAsdA_sの外側表面は断熱で,dAsdA_sと球面のほかの部分とは熱伝導はない. また,微小表面dAdAn\boldsymbol{n}方向は黒体で,反対側は断熱とする. つまり,dAdAdAsdA_sとの間にのみ輻射熱交換があるような状況を作ったわけである.

ある面から放射される熱量が,温度に依存した関数と角度に依存した関数の積で表されるとしてE(T)I(θ)E(T) I(\theta)と書こう. このときdAdAからdAsdA_sへ移動する熱は(6)となる.ただし,dΩdAdAsd\Omega_{dA \to dA_s}dAdAからdAsdA_sを見た場合の立体角だ.

E(T)I(θ)dAdΩdAdAs=E(T)I(θ)dAdAsR2\begin{equation} E(T) I (\theta) dA d\Omega_{dA-dA_s} = E(T) I (\theta) dA \frac{dA_s}{R^2} \end{equation}

一方,dAsdA_sからdAdAへ移動する熱は(7)となる.ちなみに,放射された熱のうち相手面に直接当たらなかったものについては,全て反射されて自分に戻ってくるような問題設定になっている.

E(Ts)I(π2)dAsdΩdAsdA=E(Ts)I(π2)dAscosθdAR2\begin{equation} E(T_s) I \left( \frac{\pi}{2} \right) dA_s d\Omega_{dA_s-dA} = E(T_s) I \left( \frac{\pi}{2} \right) dA_s \frac{\cos \theta dA}{R^2} \end{equation}

十分な時間この系を放置して平衡状態になったとする.すると(6)と(7)は等しいので,以下の関係が成り立つはずだ.

E(T)I(θ)=E(Ts)I(π2)cosθ\begin{equation} E(T)I(\theta) = E(T_s) I \left( \frac{\pi}{2} \right) \cos \theta \end{equation}

よって平衡状態で微小面の温度が常に等しくなるのであれば,次の関係が成り立つ. これは期待していたランベルトの余弦則である.

I(θ)=I(π2)cosθ\begin{equation} I(\theta) = I \left( \frac{\pi}{2} \right) \cos \theta \end{equation}