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View Factor Calculation: Analytical and Monte Carlo Method
熱輻射と形態係数(View Factor)の関係
どんな物体も,表面から常に電磁波としてエネルギーを放射している.
ある物体Aからエネルギーが放射され別の物体Bに当たって吸収されれば,輻射によって熱が伝えられた,ということになる.
このときどれだけのエネルギーが伝わったのかを推定するためには,ざっくり以下の3点を知りたい.
- 物体Aからどれだけエネルギーが放射されているのか?
- 物体Aから放射されたエネルギーのうちどれだけの量が,物体Bに当たったのか?
- 物体Bに当たったエネルギーのうちどれだけが(反射したり透過したりせずに)吸収されたのか?
このうち2点目の「物体Aから放射されたエネルギーのうちどれだけの量が,物体Bに当たったのか?」に関しては,
物体ABの物質の特性やその時の温度に依らず,純粋に形と位置関係によってのみ決まる.
これを事前に計算しておいて,何度も使えるパラメタとして準備しておこうというのがView Factorのアイデアだ
(一方で,それぞれの物体が変形したり,位置関係が変わってしまった場合は,計算しなおさないといけない).
注意点として,ここでは理想的な粗面(diffusive surface)についてのみ考えるものとする.
立体角
View Factorの議論をする前に立体角の定義について確認しておこう.
立体角とは感覚的には「ある点から物体を見たときに,その物体が視野のうちどれだけの割合を占めるか」を表す.もう少し具体的には次のような量である.
ある微小表面dAiとそれを取り囲むような,半径1の半球を考える.
ある物体を微小表面dAiから見たときに,半径1の半球上に投影して面積Aだけの領域を占めるのであれば,立体角をAとする.
もし,微小表面dAiの視野全体を占めるような物体があれば,微小表面からその物体への立体角は半径1の半球の表面積2πとなる.
では,微小表面dAiから微小表面dAjへの立体角をきちんと数式で定義しよう.
2つの微小表面間の距離をS,微小表面の法線ベクトルを視線方向とのなす角をそれぞれθi, θjとする.
このとき,微小表面dAiから微小表面dAjを見たとき,半径1の半球上への投影面積は次のように表すことが出来る.
dΩ=S2dAjcosθj
微小表面dAiから,何かしらの広さを持った領域への立体角は(1)を積分すればよい.
Ω=∫AS2dAjcosθj
ある微小表面dAiとそれを取り囲むような,半径1の半球を考える.
ある物体を微小表面dAiから見たときに,半径1の半球上に投影して面積Aだけの領域を占めるのであれば,立体角をAとする.
もし,微小表面dAiの視野全体を占めるような物体があれば,微小表面からその物体への立体角は半径1の半球の表面積2πとなる.
形態係数(View Factor)の定義
最も基本的な場合として,微小表面dAiからdAjへのView Factorを(3)のように定義する.
これは微小表面dAiから放射された熱と,そのうち微小表面dAjへ当たった熱の比を表している.
dFdAi−dAj≡total diffuse energy from dAidiffuse energy directly hitting dAj
粗面から放射される熱は,放射方向に依存して単位立体角当たりIcosθという形に表される(ランベルトの余弦則).
これを用いると,dAiから放射される熱の合計は次のようになる.ただし,φはazimuth方向(周方向)の角度を表す.
dAi∫02π∫02πIcosθdΩ=dAi∫02π∫02πIcosθsinθdθdϕ=πIdAi
次にdAiから放射されて,dAjに当たる熱は次のように表される.ただしSは微小表面dAiから微小表面dAjへの距離を表している.
IcosθidAidΩ=IcosθidAiS2dAjcosθj(4)
よって定義から,微小表面dAiからdAjへのView Factorは次のように表される.
dFdAi−dAj=πS2cosθicosθjdAj
ランベルトの余弦則 / Lambert’s Law
ここまでの議論で分かるように,View Factorは粗面(ランベルトの余弦則)の仮定の下でのみ有用なパラメタである.
ランベルトの余弦則の主張は「粗面から放射される熱は,放射方向に依存して単位立体角当たりIcosθという形に表される」だが,
この法則をより直感的に理解するために,次のように言い換えてみよう.
大きさAの面があったときに,その面をいろいろな方向からのぞいてみる.
正面から見ればその面の大きさは確かにAだが何らかの角度をつけて見れば,見かけの面積はAcosθとなる.
つまりランベルトの余弦則は「ある面から放射される熱は見かけの面積に比例する」と言い換えることも出来る.
逆にもし,放射熱量が方向に依存せず一定だとすると,ある面を斜めから見た方が,正面から見た場合よりもエネルギー密度(輝度)が高い.
平たく言えばより明るく見えるということになってしまう.このように考えると,ランベルトの余弦則は感覚的にも自然な主張と言えそうだ.
さらに理解を進めるため,理想的に次のような状況を考えよう.
ある微小表面dAとそれを取り囲むような内部が真空で半径Rの球があるとする.
球の内側表面にはある一部分dAsだけ黒体部分があり,残りは理想的な鏡面反射面とする.
dAsの外側表面は断熱で,dAsと球面のほかの部分とは熱伝導はない.
また,微小表面dAはn方向は黒体で,反対側は断熱とする.
つまり,dAとdAsとの間にのみ輻射熱交換があるような状況を作ったわけである.
ある面から放射される熱量が,温度に依存した関数と角度に依存した関数の積で表されるとしてE(T)I(θ)と書こう.
このときdAからdAsへ移動する熱は(6)となる.ただし,dΩdA→dAsはdAからdAsを見た場合の立体角だ.
E(T)I(θ)dAdΩdA−dAs=E(T)I(θ)dAR2dAs
一方,dAsからdAへ移動する熱は(7)となる.ちなみに,放射された熱のうち相手面に直接当たらなかったものについては,全て反射されて自分に戻ってくるような問題設定になっている.
E(Ts)I(2π)dAsdΩdAs−dA=E(Ts)I(2π)dAsR2cosθdA
十分な時間この系を放置して平衡状態になったとする.すると(6)と(7)は等しいので,以下の関係が成り立つはずだ.
E(T)I(θ)=E(Ts)I(2π)cosθ
よって平衡状態で微小面の温度が常に等しくなるのであれば,次の関係が成り立つ.
これは期待していたランベルトの余弦則である.
I(θ)=I(2π)cosθ