ブラケット記法
基本的にブラケット記法と,積分による表記は次のように対応する.
⟨Ψ∣Φ⟩=∫Ψ∗Φdq
これはヒルベルト空間における内積の定義に対応しているのだが,数学では普通(Φ,Ψ)=∫ΦΨ∗dq(ΨとΦの位置が入れ替わっている)と書くはずだ.内積が満たすべき条件は以下の通りで,(1)がこれらを満たすことが分かる.
(H.1)(H.2)(H.3)(H.4)(H.5)⟨Ψ∣Φ⟩=⟨Φ∣Ψ⟩∗⟨Ψ∣αΦ⟩=α⟨Ψ∣Φ⟩, where α∈ C⟨Ψ+Φ∣Θ⟩=⟨Φ∣Θ⟩+⟨Ψ∣Θ⟩⟨Ψ∣Ψ⟩≥0⟨Ψ∣Ψ⟩=0⇔Ψ=0
次に(1)の間に演算子Xを入れた表記について定義しておこう.
⟨Ψ∣X∣Φ⟩=∫Ψ∗XΦdq
数学で作用素Xの随伴作用素X†は(おおまかに)次のようなものだ.
(XΦ,Ψ)=(Φ,X†Ψ)
これをブラケット記法で書き直してみる.
⟨Ψ∣XΦ⟩⟨Ψ∣X∣Φ⟩=⟨X†Ψ∣Φ⟩=⟨Φ∣X†Ψ⟩∗=⟨Φ∣X†∣Ψ⟩∗
これより,もしXがエルミート演算子であれば,以下のように書いてしまってよいことが分かる.
⟨Ψ∣X∣Φ⟩=⟨Φ∣X∣Ψ⟩∗∫Ψ∗XΦdq=(∫Φ∗XΨdq)∗=∫ΦX∗Ψ∗dq=∫(X∗Ψ∗)Φdq
行列表記
ある物理量fに対応する演算子は行列によって表すことができる.ここで物理量fは離散的なエネルギースペクトルを持ち,任意の波動関数をΨ=∑nanΨnのように分解することができるものとしよう.物理量fの平均はfˉ=∫Ψ∗(fΨ)dqと定義されたが,これをスペクトルに分解した形で書き直すと次のように表される.
fˉ=∫Ψ∗(f^Ψ)dq=∫(n∑an∗Ψn∗)f^(m∑amΨm)dq=n∑m∑an∗am(∫Ψn∗f^Ψmdq ) =n∑m∑an∗amfnm(t)
このときfnmは物理量fの行列である.ブラケット記法との対応は以下のように表される.
fnm=⟨n∣f∣m⟩